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□NOVEL

タイトル 眠い。

眠い。
 眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い。
 眠い。言っとくが不眠症ではない。目をつむれば、0.5秒で意識を失う。
 でも駄目だ。眠ったらまた殺される。嫌だ。もう二度と。
 十日。十日眠っていない。十日だぞ。限界? 限界なんて何度も超えた。
 原始的に瞼を指で支えていないと意識がなくなる。何とかしないと。このままでは気が触れて、それこそ死んでしまう。
 まとめよう。今やることを。急いで一歩一歩前に進まないと未来はない。
 眠ない。これは打開策ではなく、怠惰ではないがただの時間稼ぎ。先伸ばし。じり貧。
 じゃあどうすればいい。反撃しても無駄。逃げられない。他に手はないのかよ。
 いかん。睡眠不足で思考回路が怒りに直結している。だからと言って冷静になればいいのか? そうとは限らないが、睡眠不足に怒りまで足して脳みそのキャパシティー越えたらそれこそ相手の思うつぼ。相手? 相手って誰よ。あいつら誰なんだよ。そもそも俺に何の恨みがあるんだ。
 恨みもなくて意味もない。となれば快楽殺人。一番性質が悪い。理由がないところに解決策なんて見いだせない。せめて自分を殺す理由ぐらい何かないのか。
 やばい。また睡魔の大きな波だ。明らかに間隔が狭まってきてるじゃねえかよ。
 ああ、意識が、遠のく。止めてくれ。もう止めてくれ。おかしいと思った時、すぐに手を引けばよかったんだ。俺に出来る事なんて何もなかったんだ。後悔しても遅いなんて言いたくない。後悔だよ。誰がなんと言おうと後悔してるよ。助けてくれ。ああちきしょう。
 霞む目でカッターを探す。物が8個に見える。伸ばした自分の手も8本。
 見つけた。8本の手で8本のカッターに手を伸ばす。が躊躇。でも時間がない。眠ったらまたあの悲劇だぞ。
 深呼吸を何度か行って覚悟を決める。掴む。「カチカチカチカチ」と、親指を押し上げて刃を出す。8本の刃を睨む。
 震える手。額から汗。
 嫌だ。もう嫌だ。「はあ、はあ、はあ」
 何でこんなことを。でもこれしかない。こうしなければまた殺される。
 ゆっくり自分の太ももまでカッターの刃を近づける。やだ。やめろ。でもやらなければさらなる苦痛が。やらないと。分かってる。分かってるよ。やればいいんだろう。
 左手を添える。力を込める。
 「ううう、うううううう、ううううわあああああああああああ!」
 歯をくいしばって太もも内側の肉をカッターで抉る。
 ミチミチグチャグチャミチミチグチャグチャミチミチグチャ。
 「うがががががががががががががががががあああああああああああああああああああっ」
 睡魔が消える。となれば、意識がはっきりとしてくる。さらなる激痛。失禁。失神する寸前に止める。死んだ方が楽かもしれない。
 震える手からカッターが落ちる。グチグチのミンチになって取れそうな肉片をももに両手で戻す。
 「ひっく、ひっ、ひっく、ひっ、・・・・・」
 そうだ殺そう。殺される前に殺そう。見つけ出して殺そう。どんな手段を使っても殺そう。殺す。殺してやる。何で俺がこんな目に。殺してやる。絶対見つけ出す。
 「うわあああああああああああああああああああああああああっ!」
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 無。無色透明。色としては成り立っていないかも。結婚生活の色。バラ色? ちらっと大昔に撮った電話が置いてある棚、それも大昔から飾ってある家族旅行の写真を見る。新婚当初からそんな色は見えなかった。
 と何も、そこまで真剣に昼のテレビ番組に向き合う必要もないかとも思うが、それぐらいしかこの時間帯、専業主婦にはやることがない。結婚生活25年目。色を変える為の三つの心得、瞬きせずに画面に向かってふんふんと頷くも、実行する気にはなれない。
 私だけではなくそんな女、日本全国探さなくともこのマンション内にだって大勢いるはず。色を持たず、ただ日々の生活を終える。言葉にすると何とも虚しい。
 でもそんな私に最近楽しみが一つ出来た。
 稼ぎは悪いし顔も悪い。臭いし邪魔だし何に対しても興味を示さない。旅行なんてここ十年計画すら立ってない。それなのに飯だけは不味いだの、味が薄いだの文句を言ううちの旦那。薄いのはあんただ。
 始まりは2週間前。朝起きてきた旦那が左足を引きずっていた。どうやら起きるなり、かなりの痛みがあるという。寝ていた事が不思議なぐらいの激痛らしい。
 穿いていた寝巻のズボンをずらし太股を確認する。大きく腫れあがっていた。
 隣り合わせで布団は敷いていても距離が離れているので私が寝ぼけて蹴飛ばしたとも考えづらい。最後に一緒の布団に入ったのは? うう、気持ち悪い。覚えてもいないし思い出したくもないしこれからも遠慮させて頂きたい。
 旦那が浮気? の女にバットか何かで殴られた? 別れ話の腹いせ。いいやそんなことはない。昨夜帰宅した時は何ともなかったし、それに浮気できるもんならちょっと見直す。
 その日旦那は足を引きずりながら家を出た。
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